カタメ 6
4日程の入院を経て香織は今までの生活に戻っていった
幹夫も今までと変わらなかった
正確に言えば片目が香織の目なのだが
誰もきずかない
誰も幹夫を見ていないから
よく見れば動きがぎこちないし
おかしい所がいっぱいあるのだが
比較する人がいない
前の幹夫と今の幹夫を比較する人がいないのだ
幹夫は幸せだった
自分の目が香織の体の一部にある
そして香織は前と変わらず
優しい笑顔を見せている
幹夫はそれだけで幸せだった
自分が生まれてきた意味があると思った
幹夫の唯一の楽しみ
生きる力である
香織を見ること
それは今でも出来る
幹夫はその後も後をつけた
生きる為に
彼の生きる理由
毎日確認する為に
見える
片目でもしっかり見える
彼女が見える
しかし見えるのは目で見える物だけだった
目で見えるものが全てではない
世の中の全てが見えるわけではない
見る事にこだわった男
見られてる事に気がつかなかった女
実は見られていた男
見ていた女
何を見ていたのか
何を見られていたのか